「優れたデザインは存在を感じさせない」

「優れたデザインは存在を感じさせない」

EVERGOODSの創業者であり、デザイン・ディレクターをも務めるKevin Deeが、ものづくりに対して自身が持つ信念を語るショートムービーが公開されました。

以下は公開に伴った記事の翻訳と、日本語字幕を付けたムービーです。

好奇心が導くものづくりの現場において、これまで開発したバッグは1,000を超える決断の積み重ねによって生み出されています。

縫い目の角度、ポケットの深さ、マチが折れ曲がる方向、パーツを縫い合わせる手順、そして生地の仕上げに至るまでー。

私たちにとってデザインとは、長年愛用できる製品(キャリー)を作り出すために、一つひとつの小さな決断が互いに作用し合った結晶なのです。

優れたデザインとは「存在を感じさせないもの」だと私たちは信じています。

皆さんはおそらく、そうした細かな決断の数々に気づくことはないでしょう。しかし、それこそがまさに私たちの意図するところなのです。

私たちが大切にしているこの信念が、どのように形作られているのか、ぜひこちらの動画でご覧ください。

いかがでしたでしょうか。

短い動画ですが、デザイン・製品開発の裏側やそれにかける情熱、そしてその製品を使う人たちへの想いが詰め込まれています。

動画冒頭の字幕表現について、ここで少し補足をさせてください。

Kevinは次のように語っています。

"I love it when people feel like a bag just works or it's their favorite, even if they couldn't say why."

直訳すると、

「理由はうまく説明できなくても、ただ『このバッグ、使いやすいな』とか『一番のお気に入りだな』と皆さんに実感してもらえる瞬間が、私は大好きなんです。」

というような内容です。

並々ならぬ情熱と労力を注ぎ込んで作り上げた、それこそ1,000以上の試行錯誤やその末の決断の集大成であるバッグでさえ、ユーザーがその背景や細部に気づかなくても構わず、むしろそれこそが狙いである、という姿勢なのです。

筆者はKevinと直接会い、仕事からプライベートまでさまざまな話をしたことがあるので、実に謙虚で思慮深い彼の人柄をよく知っています。

だからこそ、「粋」とも言えるその姿勢でデザインに向き合っていることを、いま改めて実感しています。

話が逸れますが、字幕翻訳とは難しいもので、異なる言語を話す語り手の意図や心情を汲み取り、それを限られた文字数で聞き手や読み手に伝えなければなりません。

映画やドラマの字幕を担当するプロの技量は、素人である筆者にとって想像の域を超えています。

この記事を書いている間にも、自身で作った字幕を読み返して、もっと良い表現がなかったかと考えてしまいます。

その一方で、先述のとおり、字幕翻訳は常に文字数の制限が付きまといます。語り手の言葉をそのまま伝えたいのですが、直訳したものを全て貼り付けることは、尺の都合で到底できません。

実際、映画やドラマでは、役者の台詞原文の一部を省いた表現であったり、重要性が低い台詞はそもそも字幕化されていなかったり、というシーンがよくあります。

もちろん、台詞全文を一言一句漏らさず翻訳して映像に組み込むこと自体は可能でしょう。ただし、あまりにも文字数が多い字幕となり、そのシーンの間に読み切ることができず、結果的にストーリーや文脈が理解できなくなります。それでは本末転倒ですよね。

しかし、「どうせ全てを伝えられないのなら」と深く考えず、手を抜いた字幕を付ければ、それもまた不自然で整合性のない文章が羅列されることになると思います。

限られた文字数で、物語の展開や登場人物の思いを代弁し、作品全体を理解してもらう。これは決して簡単なことではないでしょう。

自身の手で取り組み、こうした難しさがあるからこそ、この分野にプロが存在するのだということに気付かされました。

そして、これはあくまで素人目線の考えですが、そのプロたちも、妥協せずに頭を悩ませて選んだ言葉が映像とともに届けられるとき、視聴者がその苦労やその表現にした理由などに思いを巡らせる必要はない、という姿勢でいるのではないでしょうか。

さらに言えば、そのシーンや文脈にそぐわない、拙い言葉を読ませてしまったら、「今の台詞はどういう意味だったんだろう?」「なぜそんな表現をしたのかな?」と視聴者に感じさせてしまうことになりかねません。

もし作品を楽しんでいる最中にそんなことを考え出せば、集中できなくなってしまいますよね。余計なことを考えさせず、作品に没頭してもらうのが誰にとってもベストなはずです。

かなり脱線してしまいましたが、Kevinのものづくりに対する姿勢や、「優れたデザインは『存在を感じさせないもの』」だという言葉には、上述の字幕翻訳と少なからず共通するものがあると筆者は感じました。

そして、その視点を持ってみると、Kevinが掲げる信念と、彼が生み出すEVERGOODS製品の優れているところが、より理解しやすくなるのではないかと思います。

 

さて、最後になりますが、新しいバッグを選ぶとき、どうしても「容量が何リットルか」「どんな生地を使っているか」「ポケットがいくつあるか」といった、目に見えるスペックに目が向いてしまうことがあるかもしれません。

それでいて、似たようなバッグがいくつもあって、どれにするべきか悩んだり、違いがよくわからなかったり、ということもあるでしょう。

もし次にバッグを選ぶ機会があれば、ほんの少しだけ「そのデザインの裏にある意図」に目を向けてみてください。

きっと新しい発見があったり、そのバッグに対する評価が変わったりするはずです。